談春と志らく 嫉妬に関するエピソード
よしをです 。
世の中には、何をやっても、うまくいく人がいます。
才気に溢れ、対人関係もうまく、要領もいいし、運もいい。
兄弟子の立川談春は、
志らくが入門したときから、そのような感情を抱いていました。
志らくは、入門当初から、談志に気に入られていて、
「アイツは不思議なヤツだぞ。毎晩、オレの夢に出てくるんだ」
と、語っていたといいます。
これでは、周りは嫉妬するはずです。
たしかに落語は上手いが、生意気な男です。
「自分のしたくないことはしません。師匠もわかってくれています」
と、平然と答えるあたり、志らくの扱いにくさは、
師匠から実力を認められているだけに、タチが悪いのです。
このころの二人は、仲が悪かったといいます。
ある日、談春の心中を見透かした談志は、
「お前に嫉妬というものを教えてやる」といい、次のように語りました。
「己が努力、行動を起こさずに、対象となる人間の弱みを口であげつらって、自分のレベルまで下げる行為、これを嫉妬というんです。一緒になって同意してくれる仲間がいれば、さらに自分は安定する。本来なら、相手に並び、抜くための行動、生活を送れば、それで解決するんだ。しかし、人間はなかなかそれができない。嫉妬している方が楽だからな。芸人なんて、そういう輩のかたまりみたいなもんだ。しかし、そんなことでは状況は何も変わらない」
かれの落語への愛情や、その圧倒的な学習能力に舌を巻いたといいます。
弟子に、このような話をする前提として、
談志自身の、出世の苦労がありました。
談志は、五代目柳家小さんに弟子入りし、抜群の実力を誇りながらも、
落語界の因習や、自身の性格が災いして、
出世が遅れたという過去があります。
世の中を斜めに見ているような談志は、師匠連に気に入られず、
実力もないのに要領のいい者や、出自のいい者(名人の息子など)に、
どんどん先を越されていきました。
このようなくやしい気持ちを、弟子の談春に投影していたのでしょう。
談志とて、談春を評価していないわけではありませんでした。
むしろ、有望だと考えたからこそ、あえて、志らくをクローズアップし、
ライバルとして成長させたかったのだと思います。
破天荒な生き方ばかりが注目される、立川談志ですが、
意外といえば意外にも、まっとうな人生哲学をもった稀有な人でした。
今回も、このブログを読んでいただき、ありがとうございます。