さあ来い 卒サラ!          ~悔いのないセカンドライフを目指して~

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死神の原点

よしをです。
西洋の死神といえば、タロットカードの絵柄にあるように、
フードをかぶった骸骨が、
大きな鎌をもっている禍々しい姿で描かれることが多いですが、
日本の場合は、大抵男の老人の姿で現れ、
貧乏神との見た目の区別がありません。
それというのも、日本にはもともと死神という概念がなく、
西洋から輸入された概念だからです。

明治中期につくられた、三遊亭圓朝作の落語「死神」の原作は、
西洋のおとぎ話を翻訳し、アレンジしたものだといわれています。

借金で首が回らなくなり、自殺を考えていた男が、死神と出会い、
不思議な数珠を受け取りました。
その数珠を身に着けていると、死神の姿が見えるというのです。
病気を患っている人には死神が憑いていて、
その死神が、枕元にいれば助からないが、
足元にいれば、呪文を唱えて追い払うことができるといいます。

呪文を教わった男は、さっそく医者として活動しはじめました。
死神のいう通り、呪文を唱えると、足元にいた死神は逃げていきます。
枕元にいた場合は、「残念ですが…」と、
手遅れである旨を家族に伝えました。
あっという間に、名医としての噂が知れ渡り、
男は、ある豪商の家に呼ばれました。
もし、主人の病気を治してくれれば、大金を支払うというのですが、
病人の枕元に死神が立っているために、呪文が効きません。
男は一計を案じ、死神が目を離した隙に、布団をぐるりと180度回すと、
急いで呪文を唱えて、死神を追い払うことができました。

しかし、死神を騙したツケが回ってきました。
最初の死神が目の前に現れ、男は死界へと連れていかれてしまいます。
そこには、たくさんの火のともった蝋燭が並んでいました。
これは何かと男が尋ねると、死神は、人間の寿命であると答え、
短い蝋燭を指さして、これが男の蝋燭だといいます。
死神は、男の寿命と、豪商の寿命を取り換えてしまったのです。

「死神」には、いろんなオチがあって、
あたらしい蝋燭に火を移そうとして消えてしまったり、
移し替えた蝋燭の火をくしゃみで消してしまったパターンや、
死んだ男が死神となって、別の男に儲け話をする展開もあります。
正月や、めでたい席で演じられるのは、
死んだと思ったところで目が覚めて夢だったとか、
蝋燭の移し替えに成功して、無事にこの世に戻ってくるパターンです。

個人的には、死神に復讐されるオチよりも、
夢オチや、ハッピーエンドの方が数段面白いと思います。
いくら金や地位があっても、逃れることができない死というものに対して、
死に瀕した人の身体を回すという機知をもちいて死神を出し抜く行為は、
痛快きわまりないものだからです。

グリム童話の「死神の名付け親」という物語には、
死神を追い払って病人を回復させるエピソードが語られていて、
落語「死神」の原作だといわれることも多いようですが、
さらに古代に遡ると、もっと古い死神の原型を見つけることができます。

紀元前4~2世紀ごろのエジプトの「フィシオロゴス」という動物譚には、
カラドリオスという鳥が登場します。
この鳥を病人のところに連れてくると、病気が治らないときは、
鳥は病人から顔を背け、回復できるときは、病人の顔を見つめます。
病人が見つめ返すと、
鳥は口を開け、病気を飲み込んで、飛び去って行くといいます。

カラドリオスは、中世ヨーロッパにも伝えられ、
絵画のモチーフにも見られますが、
ルネサンス期には姿を消し、忘れられました。
ちょうどそのころ、イタリアでタロットカードが生まれています。
病人の生死を判定する鳥のモチーフが、時代を経て、
擬人化されたタロットカードの死神の姿に変化していったのです。
それが、回りまわって明治の日本へ。
文化とは、実に面白きものです。


今回も、このブログを読んでいただき、ありがとうございます。