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六代目三遊亭圓生の芸への姿勢

よしをです。

 

何度か取り上げている、六代目三遊亭圓生について、

また、エピソードをお伝えしたいと思います。

圓生の弟子だった、三遊亭圓楽(先代・故人)が、

三遊亭全生(二つ目)だったころ、

ある若手落語会に、「淀五郎」という演目をかけたことがありました。

この、「淀五郎」というのは、歌舞伎を題材にした噺で、

師匠の圓生の十八番なのですが、演じるのが難しく、

大看板の真打でも、尻込みするような大ネタなのです。

 

圓楽が高座にあがると、

その視線の先に、客席に座っている師匠の圓生の姿が入りました。

とたんに圓楽は縮みあがり、

それからは、どう演じたのか、もう、しどろもどろ、

まるで夢遊病者のような気分で高座を終えたといいます。

翌朝、案の定、師匠から呼び出しがありました。

恐る恐る顔を出した圓楽に対して、圓生は、

「全生さん、あなたは結構な噺家になりました。もう、わたしが教えることはなにもありません」

といったそうです。

もちろん、これは強烈な皮肉です。

圓楽は、もう、恐怖で顔をあげられなくなってしまったといいます。

 

圓生が70歳ごろのこと、

他の門下の二つ目に、圓生から突然、電話がかかってきました。

「あなたは、『竹の水仙』という噺ができるそうですね」

 

この、「竹の水仙」という噺は、もともと上方の噺で、

東京で演じる人は、ほとんどいませんでしたが、

この二つ目は、自分の師匠から、この噺を教わっていて、

唯一、この噺を演じられる、東京落語の噺家だったのです。

圓生は、どこからか、噂を聞いて、電話をしてきたのです。

 

「では、ご足労ですが、わたしの家に来ていただけませんか」

二つ目が、おそるおそる、圓生宅を訪問すると、

玄関先に、ニコニコ顔の圓生が迎えに出て、奥の客間へと通されます。

「きょうは、あなたに『竹の水仙』の稽古をつけていただきます。あなたが師匠で、わたしが弟子ですから、そのつもりで」

圓生自ら、下座に座り、

師匠を迎える所作で、恐縮する二つ目を上座に座らせます。

 

大名人を前に、二つ目は、大汗をかきながら、なんとか演じ終わりました。

圓生は、二つ目を玄関まで送ると、

「きょうは、本当にありがとうございました。この噺は、来月の独演会にかけさせていただきますよ」と一礼し、

二つ目に、お車代まで渡しました。

 

ここからが、いかにも、圓生らしいエピソードなのですが、

帰り際に、二つ目が玄関を閉めようとしたとき、

「失礼ながら、あなたよりは上手く演じますので、悪しからず、ひひひ」

と、独特の皮肉な笑い声とともに、

いわずもがなのひと言を、言い渡したといいます。

 

二つ目さん、逃げ帰るように、圓生宅を後にしたそうですが、

圓生が、いくら大師匠でも、あまりに失礼な態度ではないかと、

心中不愉快に思いながら、招待を受けた翌月の独演会を聴きにいくと、

なるほど確かに名人の芸で、

自分のつたない芸をベースに噺をつくりあげたとは、とても想像できません。

「この噺は、こんな風に演じるのか」と、いたく感心したそうです。

 

 

今回も、このブログを読んでいただき、ありがとうございます。