犬神家の一族と遺産相続
よしをです。
昭和22年に日本国憲法が施行され、
小説では、事件の舞台を昭和2X年としていますが、
1976年に制作された映画版では、
冒頭に昭和22年(1947年)のテロップが入りますから、
改正民法が適用された時期の事件であると考えます。
犬神家という大富豪の創始者・犬神佐兵衛が亡くなりました。
佐兵衛は正妻を娶らず、
それぞれ別の女に産ませた3人の娘がいて、
3人の娘には、それぞれ息子が1人(A、B、C)います。
また、佐兵衛には、3人の娘のほかに愛人がおり、
男子(D)を1人産んでいます。
佐兵衛は、A~Cを認知しているが、Dは認知せず、
そのほか、佐兵衛の終世の恩人の孫娘(E)が、
重要な役割をもって登場します。
佐兵衛は遺言を残していました。
①Eが(A~D)のひとりと結婚した場合、財産を全て相続する。
②Eは①の条件に従わない場合、相続権を失う。
この場合、(A、B、C)は各1/5を相続し、
Dが2/5を相続する。
この遺言書が、どういう意味をもつか、検証してみます。
まず、Eについては、「相続」と表現していますが、
実際には「贈与」です。
早速、①の場合を検証してみましょう。
かりに、佐兵衛の財産の総額を10億円とします。
本来、相続の権利をもつのは、A~Cと、かれらの母親です。
たとえば、EがAと結婚した場合、B、Cと、その母親には、
本来もらえるはずの遺産の1/2にあたる遺留分が発生します。
また、Aにも遺留分が発生します。
Dは非認知ですから、遺留分は発生しませんが、
そもそも、Dは、すでに死亡したことになっていますから、
被相続人から除外します。
かりに、EがAと結婚する場合、
各人の取り分は、以下のようになります。
Aと母親⇒10億円×1/3×1/2=1億6667万円
Bと母親⇒10億円×1/3×1/2=1億6667万円
Cと母親⇒10億円×1/3×1/2=1億6667万円
D(死亡)⇒0円
E⇒4億4444万円
Aと母親とEの合計⇒6億1111万円
②の場合は、
Dが死亡しているため、本来の相続ということになります。
Aと母親の合計⇒10億円×1/3=3億3333万円
Bと母親の合計⇒10億円×1/3=3億3333万円
Cと母親の合計⇒10億円×1/3=3億3333万円
D(死亡)⇒0円
E⇒0円
になります。
ネタバレで申し訳ないのですが、
実はDは生きていて、のちに殺されるという設定です。
犬神家の事件を防ぐことは、おそらく可能でした。
この事件は、DのA~Cの母親に対する恨みから発生しています。
佐兵衛が、どうしても、Dに遺産相続させてあげたいのであれば、
Dを認知すればよかったのです。
Dが、遺産分与の段階まで生きていれば、
①の場合は、10億円×1/7×1/2=7143万円(※)を、
②の場合は、10億円×2/5=4億円を、
もらえたことになります。
※①は遺留分で、当時の民法では非嫡相続分は嫡出子の1/2です。
Dには、最低でも、遺留分が発生しますから、
①の遺留分に納得して、溜飲をさげることができたかもしれません。
この凄惨な殺人事件は、
佐兵衛が、無知がゆえに、招いた事件だったといえるでしょう。
今回も、このブログを読んでいただき、ありがとうございます。