さあ来い 卒サラ!          ~悔いのないセカンドライフを目指して~

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これが平和ということなのだと思う

よしをです。
江戸時代、世の中が平和になると、伊勢参りが流行しました。
いわゆる「おかげ参り」は、幕末まで途切れることなく続きましたが、
江戸時代を通じて、合計3回の大きな参拝ブームが起き、
全国から、伊勢参りの団体が集まりました。
年間300~500万人が参拝した年もあったといわれていて、
いうならば、現代のバスツアーのようなものでしょう。

伊勢までの旅行は、当然ながら、徒歩によるもので、
江戸からは、最速でも片道15日間、大阪から片道5日間かかりました。

体力に自信がないと、旅行が難しかった時代です。
さまざまな事情で、伊勢参拝できない人の代わりに、
飼い犬が伊勢へ行くという、「おかげ犬」が現れました。
いつ始まった風習なのかわかりませんが、
自分では旅行ができない人が、
町内におかげ参りに行く人がいると、飼い犬を連れて行ってもらい、
お札をもらって帰ってきました。

そのうち、犬だけで、伊勢まで往復するケースがでてきました。
犬は、おかげ参りとわかるように、しめ縄を首に巻き、
お札代や道中の餌代と、飼い主の名前と住所を書いた紙を、
しめ縄に括り付けておきます。
すると、旅人たちが、道中をリレーして、犬をエスコートし、
伊勢まで連れていったのです。
旅の途中、街道の茶屋や旅籠が、餌や寝床を与えるなどの世話をし、
犬の奉公に感心して、旅代を寄付する人もありました。
そうすることで、人びとは、徳を積めると考えていて、
間違っても、おかげ犬のお金を盗む輩はいなかったといいます。

伊勢神宮にたどり着いた犬は、
神官から、竹筒に入ったお札をもらって、飼い主の元へ帰っていきました。
大勢の人の好意がなければ成立しない、奇跡のような旅行です。
無事に帰還した愛犬を見て、飼い主はさぞ感動したことでしょう。

おかげ犬は、浮世絵にも描かれていて、
歌川広重の「伊勢参拝 宮川の渡し」に描かれたものが有名です。
首にお札をつけた、中型の白い犬が、
大勢の参拝客に混じって、渡し船を待っている場面が描かれています。
お札をつけていることから、おそらくは帰路の様子で、
犬種は紀州犬でしょうか。

おかげ犬の風習は、明治になると終了しました。
江戸時代後期以降、狂犬病の流行が増え、
明治3年の東京でも、狂犬病が発生するなど、
野犬や犬の放し飼いが社会問題になりました。
全国的に、野犬狩りがおこなわれ、
飼い犬についても、自由な往来ができなくなったのです。

おかげ犬の風習の消滅は、残念ではありますが、
江戸時代というのは、つくづく平和な時代だったのだと、
感心するばかりです。


今回も、このブログを読んでいただき、ありがとうございます。